彼らと歩いた暑い日の思い出

『サマーバケーションEP』/古川日出男

 

『サマーバケーションEP』を読み終わった。

 

「海です、と僕は言いました。夏の海です。」(p.315 l.8)を目にした時、ついに来たんだなと思った。

彼らの井の頭公園から東京湾を目指す旅は、広い海を眺めて終わった。

 

「「じゃん、けん」と三人で言いました。声を揃えて。そして、次の瞬間の声が僕の記憶の内側で停まります。一時停止して、ずっと、ずっと。ずっと、きっと。消えないでここにいます。」(p.316 l.13)

この文章で物語は締めくくられた。

この文章のおかげで、彼らと海を目指し、歩いた思い出が心に留まった気がした。

 

爽やかな風が吹くような読後感。まだまだ謎が詰まっている。読み切ったのに釈然としない感じがする。『サマーバケーションEP』の世界には沢山の色があって『サマーバケーションEP』にしかない時間が流れている。きっとまた、色が溢れ、ゆったりとした時間が流れるこの本の世界に、私は帰ってきたくなるだろう。

 

登場人物も皆個性的で魅力的だが、現実には存在しない、空想の世界の住人という感じがする。彼らに感情移入しないからこそ、彼等のひと夏の海を目指す冒険を、美しい絵を眺めるように鑑賞することができたのだと思う。

 

 

[ひとくち文化]

チェンソーマン』の本予告が公開された。

出だしの津田健次郎さんの岸辺の声で痺れる。

デンジの「俺は軽〜い気持ちでデビルハンターなったけどよぉ」の「よぉ」が最高にデンジの「よぉ」でずっと頭を抱えていられる。

opは米津玄師さん、edは名だたるアーティスト達が週替わりで担当するなんて豪華すぎる。

10月11日が楽しみだ。